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――ポツポツ ポツポツ
猫(……雨か)
猫(今日もまた長く降りそうだ気配だな)
猫(餌探しはヤメて宿探しに変更しよう)
▼公園・公衆トイレ前
――ザァァ。
猫(そういや、あの時もこんな雨だったか)
猫(濡れたダンボール箱、少量の餌)
猫(あの人何か言いながら俺の首輪を外してた)
猫(いくら鳴き続けてもあの人は戻って来なくて)
猫(そうして三日経ってようやく)
猫(捨てられたんだって気づいたんだっけな……)
猫(もうやめよう。考えるだけ不毛だ)
猫(あの頃と俺は違う)
猫(寝床も餌も自分で探せる)
猫(俺はもう一人で生きていける)
猫(一人で、生きていけるんだ……)
猫(ん? 誰かやって来る)
タッタッタ
女「…………ふぅ」
猫(なんだ? コイツも雨宿りか?)
猫(まぁ俺には関係無いけどな)
女「……キミも雨宿りかい?」
猫「……」
女「耳、破れてる。痛そうだね……」
猫「……」
女「雨、早く止むといいね。キミも早く家に帰りたいだろう?」
猫「……」
女「え~っと。私の声、聞こえてるかな?」
猫「……」
女「……無視されちゃったか。ごめんね」
猫(何か言われた気がするが……)
猫(気にしたって何も聞こえないし、どうでもいいか)
猫(しかし音の無い世界ってのはずいぶんと不便で退屈だ)
猫(雨音すらも全然聞こえねぇ。どんな音だったっけな)
猫(まったく退屈だ。こう体が濡れてちゃ毛づくろいもする気も起きねぇ……)
10: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:16:18.07 ID:qwQNfO+x0
女「……ねえ?」
猫「……」
女「もしかして、本当に聞こえてないの?」
猫「……」
女「……」スタスタスタ
猫「……」
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11: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:20:00.15 ID:qwQNfO+x0
猫(雨なんて結局、避ければ濡れずに済むんだ)
猫(つまり当たらなければどうということはない)
猫(俺の運動神経なら軽く避けられんじゃないか?)
猫(右左右右左右左右左左左右)
猫(うん。やっぱり俺ならいける。いつか試して――)
女「ねえ?猫君?」
猫「!?」ビクッ
12: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:24:38.87 ID:qwQNfO+x0
猫(何だコイツ!いつの間にこっちに来たんだ!?)
女「やっと気づいてくれた。やっぱり耳が聞こえないんだね」
猫(ハァ?何喋ってんだ?こっちは聞こえねんだよ)
女「驚いても逃げないなんて、キミはきっと強い猫なんだね」
女「あっ、そうだ!」ゴソゴソ
猫(なんだよ。何しようってんだよ)
女「ほら。お昼ごはんの残りだけどあげるよ」
13: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:29:19.03 ID:qwQNfO+x0
女「こんなのしか持ってないけど、食べる?」
猫(なんだアレ……)
猫(真っ白くてツヤのある謎の物体だ)
猫(どことなく魚の良い匂いはするが……)
女「かまぼこだよ。ほら、食べれるよ」パクッ
猫(うわ、口に含んだ……。食えるのか、それ)
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14: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:33:33.29 ID:qwQNfO+x0
女「ほら。食べなよ」ポイッ
猫(こっちに投げた)
猫(……くれるってことか?)
女「……」モグモグ
猫(そういや、この雨で餌探し出来なかったもんな……)
女「……」モグモグ
15: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:37:13.35 ID:qwQNfO+x0
猫『……すまない。恩に着る』
「ニャー」
女「おっ。ようやく喋ってくれたね」
猫「……」パクッ
女「意外とカワイイ声だね。目つき悪いのに。ふふっ」
猫「……」モグモグ
女「キミを見てると、昔飼ってた猫を思い出すよ」
猫「……」モグモグ
17: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:44:37.33 ID:qwQNfO+x0
女「ねぇ。少し聞いてもらえるかな?」
女「……って言ってもキミには聞こえないんだろうけど。あはは」
猫「……」モグモグ
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19: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:50:30.09 ID:qwQNfO+x0
女「私ね、子供の頃にキミみたいな猫を飼ってたんだ」
女「ムックって名前の猫」
女「真っ白なのに、お母さんがムックって付けちゃったんだ」
女「おかしいよね。でもね、なんか妙に合ってて」
女「気が付いたらみんなそう呼んでたんだ」
20: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:53:49.22 ID:qwQNfO+x0
女「ご飯を食べる時も寝る時もずっと一緒でね」
女「私、ムックと一番の仲良しだったんだよ」
女「私あまり友達がいなかったから」
女「学校から家に帰るのが毎日楽しみでしかたなかった」
女「ムックと一緒にいる時間が大好きだったんだ」
21: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/13(金) 23:57:20.40 ID:qwQNfO+x0
女「けれどその時間も3年しか、たったの3年しか続かなかった」
女「ムックはね、病気で死んじゃったんだ」
女「あの時は散々泣いたなァ」
女「何ヶ月も本当に何もする気力が無かった……」
女「思い出すと今でも胸が苦しくなるよ……」
22: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/14(土) 00:01:15.35 ID:WbEX9Ek30
女「でもね、悲しかったことより今は楽しかったことを思い出すように――」
猫「……」チョコン
女「あれ、もう食べ終わってた?」
猫「……」
女「ごめんね。話が長かったね」
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女「聞いてくれてありがとう」
猫「……」
23: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/14(土) 00:04:52.37 ID:WbEX9Ek30
猫(何かまた色々喋ってたようだけど)
猫(俺、アンタが何言ってるのかわからんのよ)
猫(ただ、飯はうまかった)
猫『ごちそうさま』
「ニャアー」
女「“ごちそうさま”って言ってるのかな?」クスッ
24: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/14(土) 00:08:11.13 ID:WbEX9Ek30
猫(実はかなり腹ペコだったんだ。助かったよ)
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猫『ありがとさん』
「ニャーオ」
女「今度は“ありがとう”かな?」クスッ
女「どういたしまして」
25: 1 ◆Ly8skjOOFQ:2012/07/14(土) 00:13:13.37 ID:WbEX9Ek30
猫(アンタは良い奴なんだな)
猫(この一飯のお礼、俺は忘れないぜ)
女「あの……かまぼこあげた代わりにさ」ウズウズ
女「ちょっと撫でてもいいかな?」ソ~ッ
猫(おっと。だからって気易く触らせはしないぜ)ヒョイ
女「あっ。避けられた……」
- 2018.06.05
やめろ
虹の橋の話はオレに効く